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コメコメレスレス!

青山先生の『ラブラブコメコメ』という言葉が妙にツボなので、タイトルもそれに倣ってみました。
でも、そろそろ本物のラブコメ欠乏症の危機なので、ロンドン編以来のスウィートテイストなお話を所望している今日この頃です。

実は先ほど全文消えてしまって呆然としていたのですが、気を取り直してもう一度、コメレスをやって参ります!

>ももっちさん
初の拍手コメ、とっても嬉しかったです、感激致しました!
そしてtwitterでもお世話になっております!
やり取り、とても楽しいです、またつぶやきに行きますね~。
そして、とうとう遊びにいらして頂きまして、誠にありがとうございました!
まだまだ駄文の極みですが、これからも楽しんで運営させて頂く所存です。
映画感想にお付き合い頂きまして―恐縮です(笑)
ホットな作品のレビューは初めてだったので、少々緊張しました。結果、ただのつぶやきになってしまいましたが―まさか反応して頂けるとは思ってもみませんでした、ありがとうございます><
またサイトに遊びに行かせて頂きますので、いつでもいらして下さいね~。パラレルの様子はまたツイートも使用と思っています。
ちなみに、リンクフリーですので、よろしければそちらもどうぞ←


>kakoさん
こんばんは、アメブロの方でもお世話になっております^^
まさか、そんなにいらして頂けていたとは―感激のあまり、言葉も出ないです!!
これからも、新蘭愛を忘れることなく、楽しんでブログを運営していけたらと思っています。
パラレル、楽しんで頂けているようで、何よりです。
私の中でも、なかなか好きなお話なので(笑)
やっと佳境に入って参りました。これからラストスパートに向けて行きますよ!
次のお話も―実は密かに考えていますので、またこちらで発表出来たらと思っています。
私はkakoさんのようにサイトを見やすく綺麗にまとめる点に関しては、まだまだ勉強が必要ですが、完結させたら一度体裁良くまとめてみようと思っています。
そして、kakoさんのパラレルの続きもめちゃくちゃ楽しみです!!
過去作の再開も含めて、お待ちしていますね。
またコメントにも伺わせていただきます^^
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TRUE LOVE15

―お、おいっ!蘭が誘拐されたってのは、本当か!

ドアが開くや、小五郎が血相を変えて飛び込んで来た。

―お電話を差し上げた通りです。
志保が答える。

―何をやっているんだ、警察は呼んだのか?
―警察に通報すれば、命の保証はないと…
今度は美和子が答えた。

―何だってんだ、お前らは!人が、それも大事な娘が誘拐されたってのに、澄ましたツラしやがって!早く居場所を割らんか、しかも何なんだ、こいつらは!

小五郎が新一と平次に歩み寄る。
―工藤新一です。こちらは服部平次。あなたと同じ、探偵ですよ。
―何ぃ、探偵だと!?ガキが偉そうな真似をするな、後は俺がやる、こっちに資料を渡せ!
―毛利探偵…失礼を承知で申し上げますが、あなたはこの件に関わらない方が身のためです。

凄む小五郎を新一が制した。
―何だと!?
―俺も工藤に同じく、や。ここは俺らに任しとき。
―何を言うかと思えば!お前ら、何のつもりなんだ?こっちは大事な娘が懸かってんだぞ!
―それは重々承知しての事です。
―ふざけるな、ガキが生意気な事を!大体、お前らがきちんとしねえから、蘭はさらわれたんだろうが!だから俺は蘭をこんな所にやるのに反対したんだよ!

小五郎は、志保、美和子、博士を睨み付けながら言う。
―毛利はん、頼むからちょぉ落ち着いてくれや…。

―あなた、工藤君達の言う通りよ。
そこへ、英理も駆け付けて来た。
―英理!
―何で妃はんが?
平次の質問に、新一が小声で事情説明を加えた。

―あなたがここに来るだろうと思ったから、来てみたら、案の定ね。ここは工藤君達に任せて、私達は連絡を待つ側に回りましょう。
―お前まで何を言い出すんだ!
―悪いけど工藤君、服部君、説明してもらえるかしら?
―はい。毛利探偵、今回蘭さんが誘拐された目的は、金ではなく、蘭さん自身が狙いなんです。
―何っ?
―俺も、あんたらが両親やって事は、今初めて知ったんや。探偵に弁護士。目立つ職業やし、敢えて情報を伏せてたんやろう?
―そ、それはそうだが―
―しかしながら犯人側は蘭さんのプライベートについてもある程度知識があります。あなたの事だってお見通しです。いや、むしろ毛利探偵や妃弁護士を誘き出す事が目的なのかもしれません。そうとなればどんな要求を叩き付けて来るか…
―このままやと彼女の芸能界生命はおろか、あんたらの社会的地位まで怪しなるで。
―それが何だって言うんだ!
―そうなった時、蘭さんを守り抜くにはご両親の力が不可欠だ。今、お力を失うような事があっては、困るんです。
―そういう事よ、あなた。工藤君達はとても優秀な学生探偵だから、安心出来るわ。彼らに任せましょう。それでは蘭の事、よろしくお願い致します。
と頭を下げる英理。
―全力を尽くします。何か動きがあれば、すぐに連絡しますので。
新一が答えると、英理は安心したように出て行く。小五郎も英理に引っ張られ、渋々それに従ったのだった。

―*―*―*―
一同は、捜査を再開した。
―脅迫文は鑑定出来そうか?
―アカンわ、下手に警察呼ばれへんから筆跡鑑定にも回せへんな。
―ま、これもトラップに違いない、鑑定は後回しだ。アワーズの司会候補出たか?
―いや、今回に限って何にもあらへんな…。
―一応、こういうものはあるけど、参考にならないかしら?
美和子は、少し前の週刊誌に載っていた、アワーズ司会予想のページを見せる。

そこには、いわゆる大御所の名前がズラリと並んでいた。
―これは使えそうですね、ありがとうございます。宮野さん、この中に蘭さんと繋がりのある方はいますか?
―共演経験だけで言うなら、ほとんど該当するわね…これだけでは何とも…

その時、傍観に徹していた和葉と園子が騒ぎ出した。
―何や、こんな奴まで載ってるやん!
―本当だ、実は私嫌いなんだよね~。
会話を聞いた志保が、その名前と写真に目をやり、ハッとした表情を見せた。
―何や、何か分かったんか?
新一もはたと気付いた。
―…どうやらコイツが怪しいらしいな。

GPS画面に目を移す新一。
―(蘭…どこにいる?頼むから、何か居場所を示してくれ…)
と、新一は切に願った。

―*―*―*―
一方。
蘭はようやっと目を覚ましていた。
高木の車の後部座席に放り込まれたようだ。
縛られてはいないが、目隠しをされている。
車はどこに向かっているのだろうか。

―ねぇ…一体どこへ?私、アワーズの本番が…
―それはもう必要ない。代わりがちゃんといるんだ。
―そんな!私をどこへ連れて行くつもりよ!
―心配するな、手荒な真似はしない。あの方の命令で、一切傷付けるなとの事だからな。
―いやっ!降ろして!
―それは出来ない。もうすぐ高速だからな。恨むなら自分を恨むんだな。お前はもう、あの方のお気に入りなんだ。逃れる事は出来ねえよ。
―局に帰して!
蘭の声は次第に涙ぐんでいった。
声から判断するに、車には知らない二人の男が乗っている。
自分はこれからどこへ向かわされるのか。
―(お願い…誰か助けて…私に気付いて…)
しかし、携帯や台本のバッグはどこにもない。
―!
ポケットを探ると、プライベート用の携帯に手が触れた。
確か電源は切っている。
蘭は決死の覚悟で、切れていた携帯に電源を入れ、手探りで操作を始めた。
メールのボタンを押し、受信ボックスを呼び出す。
最新受信したメールに対しての返信ボタンを押し、文字を打つ。
無変換でも何とかなるだろう。
―(受け取った人が、気付いてくれますように…)
蘭は思いを込めて、送信ボタンを押した。

―*―*―*―
事務所。
その頃、志保は電話対応に追われていた。
MCが番組を放り出すなど前代未聞、とスタッフはお冠だ。
事情を話せないため、当たり障りのない言葉で言い逃れ、謝罪をするより他ない。
そうこうしているうちに、とうとうアワーズの本番が始まってしまった。
一同は、TV画面を注視する。
MCの蘭がいないという割に、意外にも番組は平然としている。
代わりのMCが堂々登場した。

―今日はぁ~、MCのランランが事情により不在という事で、私チサッキーこと宇都宮千紗希(ちさき)が代役を担当する事になりましたぁ~。よろしくね~っ!

思わぬ人選に一同は唖然とした。
―チサッキーって…久し振りに見るなぁ。
―蘭とは正反対のギャル系アイドルよね。この子、確か誰かとスキャンダルになって干されてたんじゃなかった?
―せやせや。男をとっかえひっかえしてな。何や感じ悪いよって、ウチはあまり好きやないけどな。
―だけど、なんでこの子が今になって?
―この人が干される原因になったスキャンダルの相手って正確に分かんねえか?

新一が尋ねる。
―え~っと…随分経つからはっきりしないわね。
―噂も多かったしなぁ…

その時、不意に志保が立ち上がった。
そして、もう一度週刊誌を確認する。
―…ま、まさか…!そんな…
志保は雑誌を握り締めたまま、わなわなと震え、肩を落とした。

―私ったら、あの時何て事を…。
新一は志保から雑誌を取り上げ、志保の指差す名前を見た。
名前はピンと来なかったが、写真を見た新一も事態を悟った。
―コイツで決まりやな。
―ああ。
―後は姉ちゃんの居場所を探すんや!
その時、新一の携帯が震えだした。

From:毛利 蘭
件名:Re:
本文:
たすけてもうすぐこうそく

―おいっ、蘭からメールだ!
―何ですって?
―『たすけてもうすぐこうそく』
―こうそくって何やろか?もう捕まってしまういう事?
―アホ、意味からしたら高速道路の事やろ。どうやら、姉ちゃんは、手探りで携帯を操作したようやな。
―って事は、こちらの返信は見られない可能性が高い。

―でも、どこの高速に乗ったのかしら。
美和子が尋ねる。
志保はすぐさまPCを操作した。
―蘭が連れ去られた時間と、走行距離を照らし合わせると…きっとここだわ。
―東都高速の『椎名』か。間違いないな。ここからだと、20分あれば行けるか。
―相当飛ばさなあかんみたいやけどな。
―早く皆で行かなきゃ!
と園子。
―いや、ここは二手に分かれた方が良いわね。私と佐藤さん、社長と園子はここに残って、局その他への対応をしましょう。ルートが分かっただけでは、完全とは言えないわ。工藤君と服部君、遠山さんで現場へ向かって、蘭の場所を割り出してちょうだい。
―それが一番ええな。工藤、オマエが先に行け!俺と和葉はもう少し残って調べるさかい。後からバイクで追いかけるよって。
―了解。
―工藤君、これを持って行って。
美和子が無線のトランシーバーを新一に渡した。
―頼んだぞ、工藤君!
―はい、分かりました。
―事務所内の会話は全て筒抜けにしておくから。
―(お願い…蘭を助けて…工藤君―)
新一に声を掛けながら、心の中で必死に叫ぶ志保だった。

―(蘭…今…行くからな!)
駐車場に向かった新一は車に乗り込むと、アクセルを思い切り踏み込んだ。

―*―*―*―
その頃誘拐犯の車は、ある場所に到着していた。
そこは、東都湾近くの小綺麗な貸部屋のようだった。
―降りろ。あの方がお待ちだ。
蘭はそのまま、中に連れて行かれる。
―目隠しを取っても良いぞ。
蘭は、恐る恐る目隠しを外した。

―やあ、久し振りだね、元気だったかい、ランラン?
―あ、あなたは…!!

―*―*―*―
―神戸真鯛(かんべまだい)!あのオッサン、そんな名前やったんか。
―あん時蘭ちゃんと生放送で共演した時から、狙てたって事やんな…
―生放送でもいやらしい目で蘭を見てたわ、あの男!
―いや、ずっと前から私に蘭とコンタクトさせろってしつこかったの、あの男…もちろん毎回断っていたんだけど、生放送なら下手な真似は出来ないと思って受けたのよ。その後は一切音沙汰なくなったから、てっきりもう諦めたものと…。
―神戸が関わっておるとなると、厄介じゃのぅ…姑息な手段を平気で取って欲しいものを手に入れる奴じゃ。これまでにどれだけのアイドル達が犠牲になった事か…一刻も早く蘭君を助け出さねばならん!
―待って…椎名高速を通ったって事は、蘭は東都湾近くのあそこにいるんじゃないかしら?
―どこや?
―あの辺りに、随分高級な貸部屋があるんじゃよ。あそこが神戸の第一アジトと言われておる。業界じゃあ有名な話なんじゃ。
―聞こえたか、工藤?高速降りたら東都湾に向かうんや!俺らもすぐに追い付くよって!
―了解!

―しかしのぅ…仮に蘭君を助け出せたとしても、この先の蘭君の事を思うと…
―そんなん許されへん!
―蘭は一生懸命仕事をこなして来ただけじゃない!自分の事まで犠牲にして…

平次は、いきなり無線の音量を絞り、完全OFFにしてしまった。
―ちょっ、平次!何すんねん!
―工藤には聞かせられん話をするで。マネージャーの姉ちゃんら、こんな方法はどうや?
平次はマネージャー2人に耳打ちした。
―どや、何とかならへんやろか?
―なかなかの妙案ね。早速手を打ってみるわ、佐藤さんはどう思う?
―私も賛成よ。これなら蘭ちゃんを完璧に救えるかもしれない。やれるだけやってみましょう。
志保と美和子は早速電話を掛け始める。

―なあ、平次、何するん?
―すぐ分かるよって。準備出来たら俺らの出番ももうじきやで、和葉!
―う、うん…。
久し振りに聞く『俺ら』という言葉と、『和葉』という呼び掛けに、胸の高鳴りを抑え切れない和葉なのだった。

~To be Continued~

【あとがき】
小五郎&英理の出番は今作少なめにしています。
最後はちょっぴり平和なテイストでした(笑)
ところで平次の妙案とは一体何なのでしょうか?
新一に話してはならない事のようです。
それでは、次回に続きます♪

TRUE LOVE14

―(一体どうなってるのよ…)
先程から、宮野志保はかなりイラついていた。
普段は滅多に感情を露わにしない故、これはかなり珍しい事である。

緊急会議という事で、呼ばれてみたは良いが、時間通り集まったのは僅か数人、始まったのは定刻から遅れること約1時間、18:30近くだった。
その上、『緊急』と銘打っておきながら、話題に上ったのは既に知らされたも同然な内容ばかり。
結局30分少々で終わり、現在は19:00を過ぎた所だ。終わったらすぐに日売本館へ向かい蘭と合流するはずが、随分時間をロスしてしまった。
このままだと、局に入るのは19:30を回ってしまうだろう。

―じゃあ、佐藤さん、行きましょうか。
本日何度目か分からぬ溜め息をつきながら、志保が声を掛けた。

―えぇ、そうね。

その時、志保のポケットが震え出す。
会議中だったため、これまた珍しくマナーモードにしていた。

―もしもし?
―…えっ、何ですって!蘭がまだ到着してない!?

志保の声色がサッと変わった。
横で会話を聞いた美和子の表情も引きつる。

―そんな…とっくに着いているはずなのに…私ですか?ちょっと会議に呼ばれたので、今日は高木に向かわせたんです。

高木の名を聞くや否や、美和子は素早く携帯を操作し、高木に電話をかける。

―えっ、ちょっと待って下さい…それ、本当ですか…?分かりました、すぐに確認します。

その後、電話は切れた。
―高木さんに連絡取れた?
―それが…何度掛けても出ないのよ…同じく蘭ちゃんも、全く繋がらないわ…
―もしかしたら、さっきの会議もダミーだったのかも知れないわね。本館がそんな指示を出した覚えがないって言うのよ…
―えっ、志保ちゃん、それって…
―嫌な予感がするわ。とりあえず、遠山さんに掛けるわね。

蘭のマンションでは、和葉がのんびりお菓子をつまんでいた。
そこに、携帯が鳴り響く。
着信画面は
『宮野志保』
となっていた。

―(志保さんから…何やろ?)
―もしもし?
―遠山さん?蘭は、もう出たわよね?
―えっ?蘭ちゃんなら、とうに出たけど…何で?
―蘭は、高木さんの連絡が来てから家を出たの?
―それが…渉ちゃんからなかなか電話掛かって来えへんから、蘭ちゃん電話来る前に出たんよ。
―それ、何時頃だった?
―確か17:30の約束で、それから15分位は経ってたかなぁ…このままやと遅刻してまう言うて、慌てて出て行ったわ…タクシーでも呼んだんちゃうやろか?
―蘭がまだ来てないって、さっき連絡があったのよ。
―う、嘘やろ?
―ええ、マンションから局まではどんなに多く見積もっても20分あれば楽に到着するはずだから、着いてないのは変なのよ…それに、高木さんとも連絡がつかなくて。
―大変やん!とりあえず下行って、蘭ちゃんおらんか見てみるわ!また連絡します!

一方的に電話を切った和葉は部屋を飛び出し、エントランスに向かう。
―…っ!

そこから一歩外に出た和葉は、信じがたい光景を目の当たりにした。
高木が頭から血を流し、倒れていたのである。
そして、中身の散乱したバッグも側に落ちていた…
そこには、『20アワーズ』の台本が…

―たっ、大変や…!
和葉はその場に凍り付いた。

―*―*―*―
―(アカン!こんな時こそ落ち着かなアカンて、平次言うてたやないの…)

正気を取り戻した和葉は、素早く高木に駆け寄った。
―渉ちゃん、渉ちゃん!しっかりして?渉ちゃん!
―あ…れ…?和葉…ちゃん?どうして…?
―良かった…もう喋ったらあかん、今救急車呼ぶから!
幸い既に血は止まっており、気を失っていただけのようだった。
話を聞きたい所だが、それでも今は高木の容態を安定させる事が最優先だ。
それにしても高木はいつからここに…?

約束の時間に来たとすれば、1時間半はいた事になるが―ここは高セキュリティーのプライベートマンションだ。人通りがほとんどないのが災いしたのだろう。
とりあえず、到着した救急車に高木を乗せ、和葉は事のあらましを電話で志保に説明したのだった。

志保は冷静さを取り戻しており、落ち着き次第、タクシーで事務所に来るよう指示をした。
しかし、和葉の身体の震えは止まらない。
―助けて…お願い、助けて…

…その時和葉の指は、無意識のうちに動いていた。

―*―*―*―
所変わって、東都大学大講義室周辺。
―工藤、お前も付き合えや!
―ったく…くだらない講義だったら責任取れよ?
―そやから、昼飯の保証付けたがな!

普段はとうに帰宅している2人だが、この日は夜間の特別講義に顔を出そうとしていた。
本当はアワーズを見るために早く帰宅したかった新一だが、翌週1週間学食で好きなメニューを奢ると言われ、渋々残ったのである。
講義は1時間なので、終わってから帰っても間に合うが、念には念を入れ、この日新一はわざわざ許可を取って車で来ていた。

―ほな工藤、そろそろ移動しよか?
―しゃーねぇ、行くか。ただし、つまんなかったら途中でバックレるからな!
―分かってるて。あれ、誰からやろか…電話や。ちょぉ待っとれよ。

着信画面を確認することなく、平次は電話に出る。
―もしもし…誰や?
―………。
―おぃ、何のつもりや?今忙しいんや、切るで!
―へい…じ…?
―かっ、か、和葉?

新一は軽く驚いた。和葉って…あの和葉、だよな…確か音信不通だったはずじゃ…

―何やお前、今どこにおるんや?いきなり、どないしてん!

電話口の和葉の声は聞こえないため、話は見えて来ない。
ところが…

―なっ、何やて!?それ、ホンマか?…わっ、分かった…すぐ動くよって。連れもおるから、任しとき、またすぐかけるわ。

平次がただならぬ声を発したまま、電話を切った。

―どうした、服部?和葉って…あの子だろ?
―…工藤、講義はバックレ確定や。緊急事態発生やで。
―一体何なんだよ、藪から棒に…
―話は、とりあえず外に出てからや!

平次はそのまま、新一をキャンパス外に連れ出した。

―ええか、落ち着いて聞けよ…お前の女が、現在行方不明や。しかも、何者かに誘拐された可能性が高い。
―なっ……嘘だろ!!!
―局も事務所も大騒ぎになっとるそうや。
―…!

そのあまりの衝撃に、新一は平次の軽口を否定する事すら忘れていた。
―姉ちゃんを迎えに行った高木っちゅう男…和葉の元マネージャーが、マンション前で血ぃ流して倒れとったらしい。姉ちゃんのバッグも残ってたそうや。
―つまり…奴らはその高木って人の車を奪い取って、蘭を誘拐したって事か…
―今から和葉は事務所へ行くらしい。俺らも合流やで。
―…お前、事務所の場所知ってんのか?
―いや、そこまでは…どないしょ…

その時、新一ははたと気が付いた。
前に志保から名刺を受け取っていた事に。
ニヤリと微笑む新一。
―住所が分かればこっちのもんだ。よし、行くぞ服部。
―ちょぉ待て!俺はバイクで行くで、後々小回り利くからな!
―しゃーねぇ、ちゃんと付いて来いよ!
―任せときって…

こうして2人は、新一の先導で一路オフィス・アガサへと走り出したのだった。

―*―*―*―
時刻は20:00過ぎ。
その頃、事務所には志保・美和子・社長の博士に加え、園子が集まっていた。
そこに、和葉が駆け込んで来る。

―遅うなって、ごめんなさい!
―和葉君…久しぶりじゃのう。わざわざ来てもらって、申し訳ない…。
―そんなん気にせんといて、社長!
―遠山さん…早速だけど、さっき、こんなものが来て…

それは事務所宛てに届いたFAXだった。
特徴的な筆跡でこう書かれている。

モウリランハ アズカッタ
カエシテホシクバ タダチニ
20アワーズノ シュツエントリヤメヲコクチセヨ
ケイサツニツウホウスレバ イノチハホショウシナイ

―これ、悪質なファンからじゃなぁい?
園子が言う。
―その線もなくはないけど…内部の事情に精通している人間の可能性が高いわね。
―どうしてそう言えるの?
美和子が志保に尋ねる。

―手口があまりに巧妙だとは思わない?蘭の自宅を知っていたばかりか、私や佐藤さんを意図的に遠ざけたり…ただのファンでは、そこまで頭が回らないはずよ。
―志保君の言う通りじゃ。すると、犯人グループの狙いは…蘭君本人なのかも知れんのう。
―蘭ちゃん本人やて?
―そうか!アワーズをすっぽかす事で、蘭ちゃんの信用を失墜させ、今の地位から失脚させるのが狙いって事…?
―そんな!志保さん、何とかならないの?
―佐藤さんの推理が正しければ、もう絶望的だわ…
―どういう事じゃ!
―遠山さんの話によれば、蘭は17:50頃にマンションから連れ去られた。既に2時間以上経過しているわ。犯人達は頭が回る連中のようだから、今からどんなに飛ばして蘭を取り返しても、本番には間に合わないような所に、いるはずよ。
―なら、早く局に電話して、事情を話さな!
―それじゃアイツらの思うツボじゃないの!
―蘭君の居場所は、分からんのかね?後、高木君の容態はどうじゃ?
―ダメだわ…GPSが作動しません。携帯の電源を切っているのかしら…高木君は、さっき病院に連絡した所、今は眠っているそうです。数時間は安静の必要があります。
―とりあえず、蘭の居場所を突き止めて、無事を確認しないと…。
志保は、再び蘭の番号に電話を掛けた。
―(お願い、出て、蘭…)
オカケ二ナッタ デンワハ―
志保の思いも虚しく、ただただ無機質な機械音が鳴り響くだけだった。


その時、大きく開いた事務所の扉。
駆け込んで来る2人の男。

―へ…平次!
―工藤君!
園子と志保が同時に叫ぶ。

―えっ…工藤君て―
―ご無沙汰してます、遠山和葉さん。一度、大学でお会いしましたよね。
―そ、そうや…
―(この人が工藤君やったんや!蘭ちゃん、大当たり引いたやん…って今は蘭ちゃんを捜す事に集中せな)

―今から姉ちゃんを捜すんやろ?俺らも捜索に加わらせてもらうで。

平次は、早速FAXを読み始める。
―それは構わんが…どうしたもんかのう…警察に通報すれば、蘭君の命がなくなると…
―ご心配には及びませんよ、アガサ社長。我々は警察ではない、あくまで探偵ですからね。申し遅れましたが、探偵の工藤新一です。こちらは、同じく探偵の服部平次。服部が遠山さんから連絡を受け、こちらに参りました。
―工藤君、服部君…どうか力を貸してくれ!
―了解やで。

一通りの事情を聞いた新一は、口を開いた。

―これは、蘭さんの事情及び芸能界内部に精通した人間による犯行の可能性が高いですね。手口がなあまりに巧妙な上、よく練られている…狙った日、時刻、状況からしてかなりの計画的犯行と言えます。

―凄い、志保さんの言った通りや!
―それも、相当多くの人間が絡んでると見て、間違いないで。表方か裏方かはまだ分からんにしても、芸能界で相当な力を持った人間が主犯格におるっちゅうんは、明らかやな。
―宮野さん、心当たりないですか?実を言うと、アワーズのMCに蘭さんが内定した時点で、何かウラを感じてたんです。
―どういう事?
―アワーズの事情は、母から少し聞いてたんですが、MCに支払われるギャラは相当なものらしいと。大御所がその権利をほっぽり出してまで、蘭さんにMCをさせるメリットは何かと考えた時に…もし、最初からこういう騒ぎを起こすつもりだったとしたら…?
―…!
志保の顔色が変わった。

―つまり、元々MC候補に挙がってた人間を調べれば、ボロが出て来るっちゅう事やな。
―そういうことだ、早速捜査にかかろう。

バタン!
直後、また事務所の扉が開いて…
~To be Continued~

【あとがき】
いよいよ周りが騒がしくなって参りました。
事務所に入って来たのは誰でしょうか…?
次回へ続きます。

TRUE LOVE13

―ねぇ、服部君?この後付き合ってよ…
―悪いけど、俺はもう帰らしてもらうよって。
―だって…お楽しみはこれからじゃないの…
―今日はそういう気分になれんのや、スマンが他を当たってくれ。

合コンを終えた服部平次は、一人その場を後にした。
いつも通り新一には参加を断られ、これまたいつも通り悪友達の誘いに乗ったのだが、合コン好きであるにも関わらず、これまで平次はただの一度も『お持ち帰り』をした事がない。
男達にとってはある意味合コンの醍醐味とも言える行為であり、悪友達も何度もトライしてはいるが、成功率はさほど高くないらしい。
しかしながら、平次に至っては、ほぼ毎回『逆指名』されている。
それも、大抵一番人気の美女から、だ。

悪友達は羨ましくて仕方ないといった表情で彼を見てもなお、平次はどこ吹く風といった様子で黙って一人で帰るのが恒例になっていた。

元々、飲み会も合コンも好きであるし、美女からチヤホヤされるのが嫌な訳では決してない。
しかし、合コン特有の派手な雰囲気が好きなだけであり、いざ1対1の付き合いを求められると、二の足を踏んでしまうのだ。
その度にチラつく、ある少女の顔。
一度だけ抱きしめた、忘れもしないあの感覚…
自分にとって一番身近で、親しい女性だったはず、なのに。
いつの間にかとんでもない距離が出来てしまった。

―(俺ももう、大概にせな、な…)

帰り道、平次は3年前の事を思い返していた―。

―遠山さんは、君のカノジョなの?
―ち、ちゃいます…アイツはただの幼なじみや…
―ふぅん、なら好都合だ。いやね、聞き込み調査をしたら遠山さんには随分親しい男がいて、それが君だって分かったから…
―だから何や?
―今後、一切彼女には関わらないって、約束して欲しいんだ。アイドルに親しい男がいたら、カッコつかないからね。不安要素は予め取り除いておくべきなんだよ。君だって、自分のせいで可愛いオサナナジミの夢を壊したくはないだろう?
―………。

和葉が上京後所属する予定になっている、事務所チーフからだった。

―(俺かて、探偵になるっちゅう夢がある。アイツかて、同じなんや…)

そう思った平次は、チーフの要求を呑んだのだ。

その翌日、高校の教室にて。
―なあ、服部!お前、ホンマに行かへんのか?遠山の送別会!
―あぁ、ちぃと外せん用事があるよって。
―最後だけでも顔出されへんのか?
―多分無理やわ。

和葉が一瞬寂しそうな目でこっちを見たような気がしたが、平次はスッと目を逸らした。
―(アホ!お前の為やねんぞ…)

送別会当日。
この日は、和葉が上京する前日だった。
一人、自室にこもる平次。
―(今頃アイツ、どないしてんねやろ…)

その時、携帯がけたたましく鳴り響いた。
送別会に参加したあの友人からだった。

―何や?
―大変やで。遠山が、おらんようになった!
―…何やと!?
―服部、お前心当たりないか?途中までは確かにおったのに、気が付いたらどこにもおらんねや!
―……そんなもん、あらへんわ。
―お前に会いに行ったんちゃうかて、女子らは言うとったで。遠山、盛んにお前の話しとったぞ?
―今、忙しいんや…
―明日には、行ってまうんやろ?泣いても笑っても最後やで?意地張っとらんと会いに行ったれよ、服部!お前、探偵になるんやろ?遠山がどこにいてるか位、すぐ分かるやろうが!
―スマン、今手ェ放せんよって、切るで。
―(あぁ、探偵でなくてもアイツが今どこにおるか位、俺には分かる…きっとあそこや…)

電話を切るや否や、平次は自宅を飛び出し、走り出していた。
いつもの待ち合わせ場所だった、あの公園へ―和葉はきっとそこにおる…

案の定、和葉はそこにいた。
本当は無事を確認したら、すぐ帰すはずだったが…
泣き出した和葉を見た平次は、すっかり冷静さを失ってしまった。
そして、和葉を抱きしめてしまったのだ。

―ドアホ、そんなんで泣くんなら、東京行きなんか止めてまえ!お前はずっと、俺の…俺だけの女でおったらええねん!

という言葉をすんでの所で飲み込んだ代わりに、自らの感情を封印した、精いっぱいの激励を送ったのだ。

その後、和葉は苦労の末、ミスミスで本格的なメジャーデビューを果たす。
しかし、和葉の事務所は、交友関係について極端に厳しく、全くといって良い程自由を与えなかった。
メンバーの所属事務所がバラバラだったミスミスがなれ合うのを良く思わなかった和葉の事務所は、わざわざ他メンバーに彼女の悪口を流す裏工作まで行っていたのだ。
当時和葉がメンバー間で浮いてしまったのは、ここに要因があった。
事務所の目論見は一旦は当たったが、ここで思わぬ2つの誤算が生じる。
まず、追加加入した蘭には、その性格上この裏工作が全く通用しなかった事。次に、その事実が和葉の知る所となってしまった事だ。

この事態に憤慨した和葉は、事務所を辞め、直後に独立を宣言。相談を受けた蘭が、この話を志保に伝えた結果、和葉は独立ではなく、蘭と同じ事務所『オフィス・アガサ』に移籍するという事で、話がまとまったのである。
和葉の事務所移籍騒動は、本来は大ニュースになるべき所だったが、元の事務所は大手の傘下にあった為、結局表沙汰にはならなかった。

しかし、この事務所にはとんでもない切り札があったのだ…それが、あの時の写真だったのである。
当時和葉をつけていた事務所のサブチーフが偶然押さえたものだったが、移籍した和葉への逆襲の手だてとして、思わぬ形で利用されてしまった。
当然、週刊誌に掲載されるや、大変な騒ぎとなってしまう。
事務所はこのスキャンダル揉み消しと引換に、和葉を奪い返す算段だったのだが、和葉はまさかの芸能界引退を宣言、というのが、一連の騒動の真相である。

―(あの時俺が動揺さえせんとけば…和葉はこんな事にならずに済んだ…皆、俺のせいや…俺がアイツの夢、潰してしもたんや…)

平次は元々、大阪を離れるつもりはなく、関西最高峰の難波(なにわ)大学を志望していた。しかし、和葉の上京に影響され、東都大学に志望を変更。
和葉が大阪に戻って来るも、平次は敢えて和葉から離れる道を選んだのである。

―(アイツに会う資格は、もうあらへん…)
寂しく和葉のアドレス帳を眺める平次。
以前はうるさい位かかって来たのに、あれきり1度も鳴らない専用メロディー…。

それでも、
―(アイツ今、何してんのやろ…)
と考えずにはいられない、平次なのだった…。

―*―*―*―
―はい、蘭。『20アワーズ』の台本、最終稿よ。
―ありがとうございます、って、随分分厚くなりましたね、もう本番前日なのに…
―確かに、届くのが遅かったわね。でも、主な流れまでは変わっていなかったし、完全に覚える必要はないわ。あなたの思うように進行すれば良いのよ、頑張ってね。
―あ、はい。
―それにしても、凄いわよね。蘭プロデュースの直筆サインプリント入りストラップ、ネット分と一般分、合わせて50万個全て売り切れたらしいわ。
―本当ですか?
―アワーズ観覧チケットの『当たり』付きとはいえ、本当凄まじいわ…蘭公式のグッズ販売は久しぶりだったからかしら…
―結局当たりって、何個あったんですか?
―50個よ。ピッタリ1万分の1ね。ま、1人10個までの制限があったけど、どこまで守られてたんだか。じゃ、この後はもうオフだから、帰ったら早めに休んでちょうだい。明日の本番は21:00だけど、18:00にはスタジオ入りね。いつも通り私が迎えに…。

その時、志保の携帯が鳴った。
―もしもし…えっ?あ、分かりました…それではまた明日。

―どうしたんですか?
―アワーズのスタッフから。明日、17:30に日売別館で主要マネージャーを含んだ緊急会議があるんですって。
サブマネの佐藤さんにも連絡行ってるそうだから、確認しないと。
それにしても困ったわね、蘭が行くべき本館とは少し距離があるから間に合わないわ…明日は、高木さんに車を出してもらう事にしましょう、電話するわね。

志保はすぐさま高木と佐藤に電話し、明日の件を報告したのだった。

―*―*―*―
所変わって東都大学キャンパス内、フリールーム。
いつものペアである新一・平次に加えて、珍しく平次の悪友3人が相席していた。
―いよいよ明日だな、アワーズ。
―結局俺、観覧チケット当たんなかったぜ…1万分の1はやぱキツいよな…

悪友の1人は、ストラップを4つ差し出した。
―お前いくつ買ったんだよ。
―結局10個。んで、こんだけ余った。

蘭の直筆サインプリント入りのストラップは、ピンク×ホワイトと、ブラック×ホワイトの2色があった。
男女兼用でシンプルだが、とても可愛らしいと専らの評判だ。

―って事で、お前らにやるよ。
―うわ、ラッキー!
―ありがとな。
―で、服部にも。
―おおきにって…1つ足らんやんけ。

新一は、思いっ切り仏頂面で、
―俺は要らねーよ、んなもん!
と一言。

―って言うだろうと思ってたよ。
―工藤はこういうの完璧興味なさげだからな。
―じゃ、俺ら次授業あるから、そろそろ行くわ。

悪友達は去って行った。
―工藤…お前、いつまでその顔してんねん!

見ると、新一は形状記憶よろしく、先程の表情のままだったのだ。
―ほら、俺の分やるから、機嫌直せや。
―別に、そういうつもりじゃ…
―オメーは要らねーのかよ。
―ったく、アイツらも罪作りやなぁ?
平次は軽く笑うと、新一にストラップを差し出した。

新一はそれを黙って受け取ると、そのまま開封し、自らの携帯に素早く取り付けた。
―コーヒーでも飲むか?奢ってやるよ。
―お、おおきに…。

新一のあまりの機嫌の変わりように、さすがの平次も驚きの色を隠せなかった。

―*―*―*―
一夜明け、いよいよアワーズ本番。
着いたら電話を鳴らすと高木から言われている。
しかし、電話は一向にならない。
気づけば、約束の時間を15分以上も過ぎてしまっていた。

逆に高木に電話をかけるも、繋がらなかった。
―(このままだと遅刻しちゃう―志保さんも美和子さんも会議中だし…どうしよう…)

心配になった蘭は、マンションの外に出た。

その時…
―…うぅっっっ!
不意に後ろから何者かにつかみかかられた蘭。
そのまま気を失ってしまったのだ。

―上手く行った…
―乗せろ、すぐに出せ。
こうして、蘭を乗せた車は急発進した。
日売テレビとは全く逆の方向へ…

~To be Continued~

【あとがき】
唐突ですがやっと、平和確執の謎を明らかにする事が出来ました~。
ほぼ、想像通りの設定に持って来られて満足です。
この話の平次は何気にイイ男してます♪一方で、随分お子ちゃまな新一君。
ランランの事で自分だけないがしろにされて、面白くないのは当たり前か…(笑)

さて、とうとう話が動きましたが、大変な事になってしまいました!
一体どうなってしまうのか…。
次回、ランラン奪還に向け、一同が動き出します!
どうぞ、お楽しみに。

TRUE LOVE12

和葉は、震えた携帯を取り上げ、通話ボタンを押した。
―もしもし?
―あっ、和葉ちゃん?突然ごめんね…今電話しても良かった?
―何や、ビックリした~蘭ちゃんかぁ!全然構へんけど…どないしたん?
―って言っても、大した用事がある訳じゃないの…ただ、和葉ちゃんと話がしたかったっていうか…声が聞きたかったんだ!
―もう~蘭ちゃん?それは嬉しいけど、そんな事、男の人に言うてへんやろなぁ~?
―えっ、言ってないけど、どうして?
―ウチが男やったら、完全にオチてるわ…ただでさえべっぴんさんなんやから―ホンマ気ぃ付けなアカンよ?
―そ、そんな事…
―あるからな!蘭ちゃんにオトせへん男の方が少ないのは、間違いないんやから…
―和葉ちゃん…。
―そう言えば、見たで、新聞!アワーズのMCなんて、ホンマ凄いわ…
―うん、何で私なのか不思議なんだけど…
―でも、蘭ちゃん無理はしたらアカンよ?最近、ちょっと疲れてるんと違う?
―えっ…そう、かな…
―何かあったら、いつでも相談してな?
―ありがとう…
―アワーズまで後1週間やし…そや、明後日辺り東京行こかなって思ってるんやけど、蘭ちゃんちょっとでも会われへん?
―えっ、和葉ちゃん来てくれるの?
―急な思い付きやけどな。蘭ちゃんの激励会や!今からホテル取れるやろか…
―和葉ちゃんさえ良ければ、私のマンションに泊まる?
―えっ、ホンマに?
―うん、和葉ちゃんなら志保さんもOKしてくれるだろうし、仕事でいない時間、留守を守ってもらえたら助かるんだけど…ってごめんね、図々しいよね。
―そんな事あらへん!めっちゃ助かるわ~留守はウチに任しとき。
―ありがとう…でも、和葉ちゃんだって、引退したとはいえ、元トップアイドルなんだから、変な所に泊まる訳には行かないしね。
―トップは余計やて、蘭ちゃん。
―そんな…私、今でもトーカちゃんのファンなんだから!
―ホンマ言うてくれるなぁ…けどウチも同じや。蘭ちゃんも大好きやけど、ランランの大ファンでもあるんやから。

元仕事仲間、そして現在では無二の親友でもある2人の他愛ない会話はこうして続いて行った。

―*―*―*―
―はぁーっ…
今日、これで何度目だろうか。
自宅でコーヒーを飲みながら、溜め息をつく新一。
最近表立った事件もないため、たまりかかっていた課題を片付けようとパソコンに向かうも、あまり進んではいなかった。

…溜め息をつくなど、自分には似合わないとつくづく思う。
あの日、あの時、あの場所で。
彼女を見たその時から―全てが変わってしまったのだ、と思う自分がいる。
まだ2回、それもトータルほんの数時間しか会っていないのに、既に身も心も彼女の虜になってしまっているのだと認めざるを得ない。

次に逢えたその時に、自分の気持ちを伝えるつもりだった…だが、『次』はなかった…
こんな事なら、回りくどい言い方をせずに、告げてしまうんだった。
例え彼女を困らせる事になろうとも、後悔だけはしたくない、そう考えたはずだった―
自らの計算も、武器にしてきた推理力さえも何一つ通用しない事態にひたすら辟易する他ない。

チャンスがないなら、自分で作るしかねぇか。
これだけはどうしても、譲れねえ…

そう決意した新一は、携帯電話を取り出し、操作を始める。

送信ボタンを押すと、ふと心が軽くなったのか、その後滞っていた手を動かし課題を一気に片付けると、そのまま眠りについたのだった。

―*―*―*―
それから2日後の昼下がり。
和葉は東京駅に降り立った。
タクシーでも拾おうかと進むと、とある車から2度、クラクションを鳴らされる。
運転席の窓が開けられた。
―久しぶりね、乗って。
―し、志保さん!

和葉が乗車したのを確認すると、志保はゆっくりアクセルを踏み込んだ。
―わざわざすみません、まさか、迎えに来てくれるやなんて…
―蘭から到着時間を聞いてたのよ。あの子も心配してたけど、いくら第一線から退いたとはいえ、あなたとて、まだ楽に道を歩けやしないでしょ?未だに伝説なんだから。
―そ、そんな…
―今でも、ディガ関連でウチの事務所によく電話がかかって来るのよ?当時のグッズ、何でも良いから残ってたら売って欲しいとか…
―ホンマですか?
―ええ。最も、今となってはプレミア付きでもあるから、事務所が譲れるグッズは何一つないけど。ところで、いつまでここにいるつもり?
―それが…まだ決めてへんのです。一応今短大は休みやから、急ぎの用事はないんやけど…
―そう…それなら、最低限今週末まではいてもらえないかしら。
―今週末て、20アワーズの本番控えてますけど…ええんですか?
―むしろ、蘭のマネージャーとして、あなたにお願いしたいの。ここの所の蘭は、どうも思い詰めているから…元仕事仲間で大切な友人、いや親友のあなたと一緒にいたら少しはあの子の気も紛れるんじゃないかって…しばらく、あの子の側にいてサポートしてやってはもらえないかしら?私じゃ仕事っ気が抜けなくて気詰まりになるだけだろうから…
―それは構へんのですけど、何で最近の蘭ちゃんは、あないに元気ないんですか?
―…かつてのあなたと同じ理由よ。
―それって、まさか…。
―ええ、そういうこと。
―園子ちゃんは知ってるんですか?
―もちろん。今回の話を具体化したのは彼女だから。

志保は、これまでのあらましを一通り和葉に話して聞かせた。
―そんな事があったんや…何やめっちゃ素敵やん!で、志保さんはやっぱり反対やの?
―反対…するつもりだったわ。だけど、それは私の器が小さいだけの話。一度だけ、蘭とその人が一緒になっている所を見たんだけど―あの子、とても幸せそうな良い顔してた。私は私なりに蘭を大切にしてきたつもりだから…あの子を奪われるのがシャクなだけなんでしょうね。
―そうか…。
―でも、今の蘭は、彼とどうにかなるつもりはないみたい。まずは今週末の仕事をきっちりこなすんだ、って…。だから余計心配で。
―志保さん、了解やで。ウチ、最低今週末までは蘭ちゃんをしっかりサポートするよって!
―ありがとう、心強いわ。

話しているうちに、蘭のマンションに到着した。
志保は、蘭から預かった合鍵を和葉に渡す。
―私は一旦事務所に戻るわ。蘭は、夕方には戻って来る予定よ。どこかに出掛けたいなら、面倒だろうけど私に電話してね。私か事務所の誰かに車を手配させるわ。あっ、敷地内のコンビニは好きに行ってもらって問題ないけど。但し、変装は必須よ。
―わ、分かりました…。

志保の車はそのまま走り去った。
―(ところで、あの志保さんがほぼ認めたも同然な蘭ちゃんの彼って…どんな人なんやろう…めっちゃ気になるわぁ―)

―*―*―*―
それから更に2日後の夜。
仕事を終えた蘭と和葉は久々に穏やかな夜を過ごしていた。
―ところで蘭ちゃん、これ、今使ってる携帯?
―あっ、どこにあったの…?この携帯、ずっと探してたの。
―部屋の隅っこに引っかかってたわ。なくて大丈夫やった?
―うん、ここしばらくは仕事用の使ってたから…和葉ちゃんも園子も両方の番号登録してくれてるし、あんまり不便感じなくって…充電も切れちゃってるね…

蘭は、早速見つかった携帯を充電器に差し込んだ。
一応、メール受信しておこう…
『新着メール1件』
の文字。

受信メールの差出人を見た時…蘭は茫然とした。
震える手で本文を開く。
―………!!
―どないしたん、蘭ちゃん?
―………。
―ちょっと、貸してみ?
和葉は、固まったままの蘭からそっと携帯を取り上げた。
―これ…!

From:工藤 新一
件名:無題
本文:
迷惑だとは思うけど。
この間言い忘れた事がある。
5分で良いから、俺の話を聞いて欲しい。
どうしても直接会って話がしたいんだ。

俺に、もう一度だけチャンスをくれないか?

返事、待ってる。


―蘭ちゃん、このヒトなんやね…?
―え?
―志保さんの言うてた、今一番蘭ちゃんを困らせてるヒトて…『クドウシンイチ』て言うんや…
―………。
―蘭ちゃん、ごめんな…?
―えっ、和葉ちゃんは何にも悪くないよ…?
―ウチがちゃんと決められへんかったから、蘭ちゃんにまで辛い思いさせてしもて…ウチはもう十二分や…もうウチの夢背負うたろなんて思わんでもええんよ…。
―和葉ちゃん…?
―アタシ、蘭ちゃんの顔を見に来る以外にも、ここに来た目的があったんや。
―そうなの?
―今度こそ逃げ出さんと、平次に謝るんや。そんで、当たって砕ける覚悟で告ったる。絶対や。だから、今の仕事終わったら蘭ちゃんも、彼にちゃんと返事するて約束して?お願いや…。
―どうして?
―えっ?
―和葉ちゃん、どうして私にそんなに…?
―分かってしもたんや。さっきのメール見た時の蘭ちゃんのカオで…きっとウチと同じカオしてるって…後悔はナシやで、お互い頑張ろな、蘭ちゃん?
―…うん、そうだね。
―そうと決まったら今日は飲も!これ、さっきコンビニで買うて来てん。まずは、週末の20アワーズが上手く行きますように、乾杯や!週末オールは確定やな、ずっと蘭ちゃん見てられるんやもん、こない幸せな事ないで!
―もうっ、和葉ちゃんったら!じゃあ、何かおつまみ作らなきゃね!
―あっ、ウチも手伝う…

美少女達の夜はこうして更けてゆく…。
何かが起こりそうな予感の20アワーズ本番まで迫ること、あと3日…。
~To be Continued~

【あとがき】
ここに来て和葉ちゃんが大きく動いて来ました!もちろん、この先も重要な役割を果たしますのでお楽しみに♪
和葉の思いは無事平次に届くでしょうか!?
そして、ランランに対して最後の賭けに出た新一。素っ気ない文章ながら、ランランを揺さぶるには十分か!?
主役CPでありながら、言葉も接触も少ない彼らですが、見えない引力に引き寄せられている感じを味わって頂けたら幸いです。
2人は間違いなくあの短い時間で惹かれ合ったのだと…。
次回から、怒涛の『20アワーズ』編、いよいよクライマックスに入ります!

11人目のストライカー~!ネタバレ注意!~

予告(?)通り、公開当日のレイトショーで観て参りました、『11人目のストライカー』。
ちなみにその昨日は、
・劇場版公開
・単行本75巻発売
・連ドラノベライズ本発売
・映画ノベライズ発売(見つけられず未購入)
・漆黒の追跡者映画版コミック購入
・特別編購入

そして、
・ポケモン最新作予約開始
・ポケモン映画前売り券発売

後半の2つはこのブログには関係ないですが、とりあえず昨日1日でこれだけのものが出回ったため、必然的に散財する結果となりました(汗)
まあ、社会人になってから出費という出費をしていなかったので、そこまで痛手ではないですが(笑)

という訳なので、早速映画レビューをしていこうかなと思います。
レイトショーにも関わらず、予想通りというべきか、やはり並びました。

ネタバレも辞さないつもりですので、この先はあくまで自己責任でお読み下さい。
こちらは、それによる一切の責任を負いません。

>以下、ネタバレにつき…
★全体的な感想
今回の映画、勝手にサブタイトルをつけるなら、
『コナンの、コナンによる、コナンのための映画』
ではないでしょうか(笑)
という位、コナン君がキラッキラしてました。
それはそうです、大好きなサッカー漬けでしたもんね~。
展開が物凄くスピーディーで、本当にあっという間の2時間でした。
そして、少年探偵団もなかなかに活躍していましたね。

★ゲスト声優
桐谷美怜さん、なかなかお上手だったなと思います。あまり違和感がありませんでした。
そして、宮根さん…前作のチョイ役から、見事に出世してましたね~!まさか本人役で出演されるとは…あれはかなりオイシイ役だったんじゃあないでしょうか(笑)
サッカー選手陣は―すみませんが、声優には向いてないんじゃないかと…これはちょっと酷かったです…
ただ、ネットニュースの通り、カズこと三浦和良さんだけは、他の方々より数段上に感じました。
それぞれ、重要な役割を担っていただけに―それにしても、コナン君は本当にサッカー大好きなんですね。
選手達やボールが絡むと、外見と年相応に成り下がる高2の姿が垣間見えました(笑)
哀ちゃんの言う通り、
『ただのサッカー小僧』
ですよ←

★事件
今回は、トリックそっちのけで、爆弾、爆弾、また爆弾でしたね(笑)
そして、犯人はギリギリまで分からなかったです…
唐突に亡くなった息子の写真を見せる父親が怪しいかと思いましたが…
まさか、最初から最後まで怪しかった人がそのまま犯人とは!
でも、犯行の動機自体は、そこまで自分勝手なものではなかったですね。
勘違いした挙げ句暴走し、コナンに咎められてはいましたが…。
見た目はあんなでしたが、あの男の子との友情をとても大切にしていた事だけは分かりました。

今回の事件では、誰も死人が出ず(これは純粋に評価します!)、いつも使っているはずの麻酔銃の出番がなかった辺り、少し異色の作品と言えるでしょうか。
コナン君が超人的な働きをしているのはもうお決まり!?

それにしても小五郎が悪者にならなくて良かった。

★新蘭その他
今回のコ哀は、完全に『相棒』の位置付けでしたね。
確かに、あのお気楽無鉄砲な探偵団をコントロールするのに、哀ちゃんの力は必要不可欠ですが、それにしてもコナン君…哀ちゃんを簡単に使い過ぎ(苦笑)
あんだけ頼りにされてるアピールをしたら、そりゃ勘違いしますって…。

今回はサッカーメインなので、新蘭色はそれ程濃くないだろうと思っていましたが、思った以上は…ありましたね(笑)
映画であまりラブコメ色を強くすると、本編で出来なくなってしまうという話をどこかで見たので、その分本編に期待します(汗)
でもでも、十字路から大分経つ事ですし、もうそろそろ新一本人を登場させてはどうでしょう…
しかし、今回はちゃんと新一、ギリギリで蘭の思いに応えたので、良しとしましょう。
逆に蘭ちゃん、お出掛け前にはしっかりと充電をしときましょう!!
あのタイミングで切れてしまったという事は、着信履歴にも残らなかったのか…否、留守電になったら残るはずですが…

ところで哀ちゃんはいつからかしっかりスマホに替えてましたね。
蘭ちゃんは新一がプレゼントしない限り、絶対機種変更しないと思いますので…しばらくはガラケー安定でしょうか?
ドラマの新一はしっかりスマホ持ってましたが、実際の新一は、あんまりトレンド(最新モノ)には興味なさそうなので…まだしばらくは替えないかな(笑)
って、機種変更したらまた小細工が面倒になりますか!

映画序盤で、蘭ちゃんがあまりサッカーを(する事は)好まない趣旨の発言をしていましたが、その理由はエンディングで明らかに。
いやはや、まさかのオチでした。
そりゃ蘭ちゃんはトラウマ(?)にもなるよね。
だけど、あの語り口からして、相手が新一だから(まだ)良かったという感じも見て取れましたよ(笑)?
ま、思春期真っ只中の新一君が見られたという事で、良かったとしましょう!

こんな感じの、レビューでした。

TRUE LOVE11

久しぶりの更新となりました、パラレルストーリーです。
本当は、前回辺りで完結しているはずが…結構長くなっています。
結末は大体決めていますが、書いているうちに思わぬ方向へ暴走する―かもしれません(笑)
それでは、以下から本編です。

―*―*―*―
あの日から、早1週間が経過していた。
5日間のオフも駆け足で過ぎ去り、また忙しい日々に逆戻りの蘭。
相変わらず、明るく真面目に仕事をこなす彼女だったが、ここしばらくの彼女はどこか元気がない、何かあったのか…と一部のある意味鋭いネットユーザーの間では、専らの話題となっていた。

―皆さん、どうもお疲れ様でしたっ!
―お疲れ、ランラン。
―ゆっくり休んでね。
―ありがとうございます。

レギュラー番組の収録を終え、控え室に一人戻った蘭。
この日初めて、表情が崩れる。
『あの日』の出来事が、未だに蘭の頭を支配し、振り払う事が出来ない。

勝手な事を言ったのは自分なのに、それでも胸の痛みを感じてしまう自分に嫌気が差す。本当に痛い思いをしたのは、彼の方なのだ。

…私が、一方的に彼を拒絶したんだから―

その時、軽いノック音がした。
―蘭?入るわよ!
―はい、どうぞ。

入って来たのは、志保だった。
―たった今入った話なんだけど…蘭、あなた今年の『20アワーズ』のパーソナリティに内定したみたいよ。
―えっ、本当ですか?
―ええ。これはまた凄い役目ね。歴代アイドル史上初の快挙じゃないかしら。

20アワーズとは、毎年夏に放送される、国内最大手のTV局、日売テレビが企画・監修する超目玉番組である。
今をときめく芸能人達が集い、様々な特別企画に挑戦する内容だ。
番組は、その名前通り20時間ぶっ通しの生放送。笑いあり涙ありとバラエティに富んでおり、わざわざ20時間録画する視聴者も珍しくないらしい。
放送時期が近くなると、ハードディスクの整理を始める家庭が多いと、専らの噂である。

そんな20アワーズだが、パーソナリティはなかなかハードな大役であり、大御所と呼ばれる者達が取り仕切るのが通例だった。
ところが、今年はマンネリ化を防ぐ目的で、番組の趣向を大きく変えるとの事。
その一環が、ランランをパーソナリティに指名した事だったのだ―
と、志保は説明してくれた。
ちなみに、普通パーソナリティ役には数ヶ月前から告知されているものだが、今回話が来たのは1週間前。
このサプライズも局の演出という事だったらしい。

―忙しい1週間になりそうね、とりあえず明日のメディアは大賑わいよ、蘭。まずは体調をしっかり整えて…って、あなたが今解決すべきは―心の方ね。
―…えっ?
―最近の蘭には、あまり覇気が感じられないわ。いやね、責めているつもりはないのよ。だって、あなたの態度はそれでも完璧だから。多分、蘭が今思い詰めてる事が分かっているのは、私と一部の鋭いファンだけだと思うわ。後園子もかしら…
―ご、ごめんなさい…私、私…
―蘭、謝る必要はないのよ。誰だって、いつもかも絶好調でいられるはずはないんだし。でもね、私はそれ以上にあなたが心配。あなたはいつだって、自分より他の誰かの気持ちを優先させて、肝心な自分自身の気持ちには蓋をしてしまう…そうさせているのは、やはり私なのかしら…
―違います!志保さんは何も悪くないんです…私の問題ですから…
―なら、敢えて言わせてもらうわ、蘭。自分の気持ちに素直になる事は、時にとても勇気がいるの。それを怖がっては、絶対にダメよ。気付いた時には大切なものを失ってしまう事だってあるんだから…
―志保さんも…
―え?
―志保さんも、そういう経験があったの?だから、私に忠告してくれたんですか?
―…そのようなものね。私の場合は本当に、取り返しの付かない事になってしまったわ…だから、蘭…私に出来る事ならば、何だってするから、たまにはワガママ言っても良いのよ…
―ありがとう、志保さん。でも、まずは20アワーズの役目を果たしてからにします。それまでは…。
―分かったわ…今日はお疲れ様。

あの日の園子との会話が蘇る。
蘭が逃げるように店を出た後だ。
―蘭~お疲れ。初デートは、どうだったの?
―そ、園子…。

蘭はたまらず、園子に抱きつくと、泣き出してしまった。
―ど、どうしたのよ蘭!?まさか、アイツに嫌な事でもされたの?
―…ち、違うの、そうじゃ、ないの…
―なら、どうしたの…

蘭を必死に落ち着かせる園子。すると、蘭はゆっくり話し始めた。
―帰り際に、これからまた会って欲しいって言われたんだけど…
―だけど?
―断っちゃった。もう会えないって。
―それって蘭の本心?
―………。
―違うのね、読めたわ。

さすがは園子、親友の事に関しては志保にひけを取らない位に鋭い。
―怖かったんでしょ?彼を今よりもっと好きになってしまうんじゃないかって…
―えっ、す、好きってそんな…だってまだ2回しか会っていないし…
―あのね、蘭。人を好きになるのに、会った回数や時間なんか関係ないの。一目惚れっていう言葉だってまかり通っている位なんだから。
―………。
―蘭、あなたきっと、あの日トロピカルランドで初めて会った時から工藤君を好きになってたのよ。良かったじゃない、ずっと憧れてた『恋』が出来て―!
―…そんな事…ないよ…
―どうして?
―だって苦しいだけ、だもん…
―それが、『恋の病』って奴よ。で?彼の誘いを断った事、後悔してるって?
―そうじゃないの…これ以上彼に会ったら、きっと私、仕事どころじゃなくなる…だからこれで良かったの…
―蘭もついに、仕事と恋愛を天秤にかける歳になった訳か(最も園子とて同い年だが!)…えらいわね、蘭は。私なら何もかも放り出して、恋愛に走っちゃうけど。
―だって、仕事を疎かにしたら、たくさんの人に迷惑がかかってしまうわ…志保さんや事務所の他のスタッフさんや、番組関係者、ファンにまで…
―蘭…。

―(もう一度彼に会ってしまったら、私はきっと、もうランランではいられなくなってしまう…)

―(工藤君、あなたの意中のお相手は、やはり一筋縄では行かないわよ…あれ位断られた程度で諦めるはずはないでしょうけど…これからどうするつもりかしら?)
―*―*―*―
翌日。
『ランラン、20アワーズのパーソナリティに内定』
という文字が、スポーツ新聞の一面に躍り出た。
ワイドショーも朝から賑わっており、蘭は日売テレビ系列の生出演に大忙し。

ところで、国内の最高学府と名高い東都大においても、朝からその話題で持ち切りのようだ。
―聞いたか?ランランの話!
―あぁ、今年のアワーズは全部録画で決まりだな。

―おい聞いたか、工藤?あの姉ちゃん、またえらい事になったな。
―それなんだけどよ、服部…何か引っかからねえか?
―何がやねん、工藤。お前、いくらあの姉ちゃんが人気あるからって、そんなんで妬いとったらやってられへんで。
―バーロ、んなんじゃねぇよ!20アワーズは昔母さんが出た事あっから知ってんだが、あれは毎年日売とズブズブの大御所タレントが出演者を厳選してるって話だ。しかも、パーソナリティのギャラはかなりのもんだって話もある。ただの出演者とはゼロが1つか2つ違うとも言われてんだぜ?つまりだ、大御所がそんな美味しい役を放り出して、わざわざ蘭を起用させる理由が分からねえんだよ。
―どういうこっちゃ?
―確かに、蘭は今をときめくトップアイドルだ。出演者になるのは分かるんだが…何か、ウラがあると思わないか?
―まあ、あの番組は最近マンネリしとったから、テコ入れするとは言うてたし…考え過ぎちゃうか?ま、あの姉ちゃんが心配なんは分かるけど。
―だと良いが…

どことなく、不穏な空気を感じる新一。
後に彼のこの不安は、的中してしまう事になる…。

―*―*―*―
所変わって、大阪。
短大近くの下宿先に、和葉はいた。
課題も何も手につかず、時間だけが無情にも過ぎ去っていく。
思い返すのは『あの日』の出来事。
和葉が上京する、前日の夜―

―和葉、和葉ァ!
―…平次!
―お前、こんな所で何してんねん!急におらんようになったて、皆騒いどったんやぞ!
―平次の事、待ってたんや…平次なら見つけてくれるて、そう思てた…当たり前やんな、日本一の探偵になるんやもんな。
―アホ!心配かけよって!どこで、誰に見られてるか分からへんのやぞ!
―そんなん、かまへんよ。今日だけや、今日位、ウチのわがまま許したって…平次…明日からウチは1人なんや…最後に会いたかったんよ…

たまりかねて泣き出す和葉。
―ドアホ!お前は、日本一のアイドルになるんやろうが!こんな事で泣いとってどないするんや!
―そやかて…
―あぁ、もうしゃーないな!

そう言うと、平次は和葉を引き寄せて、抱きしめた。

―…今は思い切り泣いたらええ。その代わり、他ではもう泣くなよ。皆に夢与える女が、簡単に泣いたりしたらカッコつかへんからな。
―ありがとう、平次…ありがとう…
―…帰って来るなよ。
―え?
―夢叶えるまでは、帰って来るんやないぞ。
―…分かってる。

―*―*―*―
―まさかこの時の写真、誰かに撮られてたなんて…

―(平次は絶対怒ってる。こんなに迷惑かけた上、約束かて破ってしもて…平次は中途半端が誰より何より嫌いやのに…ウチ、何やってたんやろ…平次はただ、ウチを慰めてくれただけやったのに…何で皆信じてくれへんかったんや!)

また、人知れず涙を零す和葉だった。

その時、和葉の携帯が震えて―
~To be Continued~

【あとがき】
久しぶりの更新です。
やっとお話がクライマックスにさしかかって参りました。
今回は、新蘭平和が勢揃いです。
新一は少し喋っただけですが…
仕事と恋愛を天秤にかけ、自分の思いに蓋をしようとするランラン。
過去の出来事を思い返し、一人涙するトーカ。平和の一連の出来事が、少し明らかになりました。
和葉の中では、平次はどこまでもカッコエエ男なんです(笑)

新一は、蘭に
『(好きな女に)泣かれると困る』
と言ってますが、平次は真逆、つまり
『自分の前でならいくらでも泣けば良い』
というのではないかと勝手に思っています。
いや、新一だって本音は平次と同じなんでしょうが、そこは関東/関西の差という事で。

和葉に電話をかけたのは誰でしょう?
次回は、新一の心理を掘り下げて行けたらな、と思っています。
よろしくお付き合い下されば、幸いです。

近況報告&コメレス。

私事になりますが、やっとこさ大学を卒業し、社会人デビューを果たしました。
まだ、何をしているという訳でもないですが、あくせく(?)頑張っております。
差し当たっての楽しみは、もちろん来週公開の劇場版最新作です!この日、実は夜勤(否、真夜中勤)明けになります。
私は都会から田舎に逆戻りしたクチですが、特に私の住む所では映画を見るために並ぶ必要などないのが通例。大学にいた頃は、映画を1つ見るために行列に長時間並び、やっとこさチケットをゲットする必要がある事に、かなり辟易したものです。この後はすぐに知恵が付き(笑)前もってチケットを購入するようになり、問題はクリアーしましたが―ちなみに、座席が指定席という事にも驚きました!!

ところが。
そんな地方にも関わらず、映画のチケットを購入するためにわざわざ並んだ作品が2つ。
それが、『ハリーポッター』と『コナン』だったのです。
コナンは、GWめがけて行ったこともあり、家族連れで大にぎわいでした。
今回、弟も一緒に見に行きたいとのことなので、行列覚悟で公開初日のラスト(夜)回を見に行く予定でいます。
今から凄く楽しみです!!
感想は、こちらでもご紹介出来たら良いかなと―

小説連載も、時間の許す限り続けていく所存です。アイディアが浮かんだら、とりあえず携帯にメモしておく事にします。
実家に戻ったことで、パソコンも自由に使えるようになりましたので、これまで以上にスムーズな更新が出来るかと思うので...

という話はこれくらいにしまして、コメントレスをさせて頂きます。
コメントは、白字にしてありますので、反転させてお読み下さいませ。

>ANさま
初めまして、この度はコメントありがとうございました。
私の取り留めもない愚痴に反応頂き、申し訳ない限りです。
確かに、アニメをたまに見る程度のライトファン層であれば、コナンや蘭がまず候補に挙がってくるわけですね。
蘭は仮にもヒロインですから、登場回数はコナンに次いで2位だと聞いたことがあります。
私自身は、2人がそれぞれ高い位置にランクインしていて素直に嬉しかったのですが―ANさまのコメントもあって、コナンが未だに幅広い世代から高い支持を受けている事に驚くばかりでした。
それだけに、番組でももう少しきちんと取り上げて欲しかったな、と思ってしまったのです。
また是非遊びにいらして下さい、お待ちしておりますね。

ちょっとした憤り。

本日、フジテレビで放送されていた、
『1億3千万人が選ぶ!!アニメ&特撮ヒーロー/ヒロインベスト50!!』

新聞には、ルフィや悟空と同列で『名探偵コナン』が並んでいたので、放送をかなり楽しみにしていました。

ところが、いざフタを開けてみると!
我らがヒロイン、毛利蘭が全体18位にランクイン。
紹介テロップは、
『恋人は小さな名探偵』
いや、正確にはまだ恋人じゃあないはずですが(汗)

ナレーションは、
名探偵コナンの優しいお姉さん的存在、毛利蘭。

えっ、たったこれだけですか!?
ちなみに、各世代のランキングは以下に挙げました。

10代 2位
20代 6位
30代 27位
40代 28位
50代 18位
60代 22位

10代堂々2位ですよ!


そして、蘭が出て来たのなら、コナン君だって出て来るはず…と、その後の放送も目を凝らして見ていたのですが―。
ついに江戸川コナンの名前は出ぬまま、放送はあっけなく終了。
えっ、え~っ!?
そんなバカな!

と思っていましたが、母曰わく
『コナンは小さいから、ヒーローって感じではないんちゃうか?』
と言われ、無理やり納得したんです。

が!
勉強を終えてTVを見に来た弟が、録画していた同番組を見始めると。
何と、コナン君は全体6位に堂々ランクインしていたではありませんか!!!

紹介テロップは、
『体は子供、頭は天才頭脳』
ナレーションは
名探偵コナンの主人公、江戸川コナン!

またしてもこれだけですよ!
実は、7位が『ウルトラマン』5位が『ウルトラセブン』だった上、両者とも長々紹介されており、ほとほとウンザリしていたんです。
つまり、たった一瞬だったため、見逃してしまっていたのでした。

気になる各世代ランキングはこちら。
10代 2位
20代 4位
30代 11位
40代 13位
50代 8位
60代 6位

これだけ凄まじい支持率、特に、50~60代もTOP10にランクインしているのにはビッグです。
なのに!
蘭もコナンも扱いが酷すぎて、コナンファンとしては悲し過ぎました(号泣)

全くの期待外れも良い所です。
いくらコナンが他局の番組とは言え、あまりの待遇に悪意すら感じます。
ルフィやナミ(どちらも10代1位)については、名シーンを交えて長々紹介していたのに…。

ただ、コ蘭が10代の2位をそれぞれ飾っていた事実は、素直に嬉しかったです。
私は既に10代ではないですが(笑)
20代からもそれなりに支持されていましたし―

と言いますか、そもそも蘭がランクインしているなら、哀やキッド様が入ってないとおかしいんですけどね…。
コナンの人気キャラ投票をさせたら、両者は主人公を上回る勢い(と言いますか、哀の方が蘭より順位高いのでは…)のはずなのに…。
↑私は蘭の方が好きです!もちろん哀ちゃんも好きですよ。『灰原』じゃなく、『哀ちゃん』呼びにこだわってます。

という愚痴でした(汗)

Please Please (kiss) Me...~PartB~

b)を選ばれた皆様。
こんなお話になりました。

―*―*―*―
―ねぇ、新一…お願い…!
―………。

悲痛な声でそう訴える蘭。
聞き間違い―じゃない、よな…?

と、その時。
一瞬油断したその隙に、蘭ともろに視線が絡み合ってしまった。
その潤んだガラスのような瞳に、新一の思考回路は全て停止する。

―(オメェがして欲しいって、そう言ったんだからな)
―(誘ったのは、オメーだぜ…?)

…気付けば、蘭の肩を掴んでいた。
しかし、蘭は抵抗するどころか、黙って目を閉じるのみ。

自然に縮まっていく二人の距離。

そして―――。



その唇には確かに、蘭からこぼれ落ちた涙が………。


一瞬後、黙ってお互いの顔を見つめ合う2人。
…これからどうすれば良いのだろう?

先に沈黙を破ったのは、蘭の方だった。
―…あっ、あのっ!私、急用を思い出しちゃったから、先帰るねっ!
―お、おぅ…

そそくさと走り去る蘭。
…自分は、どさくさに紛れてとんでもない事をしてしまったのではないか…

と気付いたのは、それからしばらくしてからのこと。
蘭はとっくにその場からいなくなっていた。

―*―*―*―
風呂から上がり、着替えた蘭は、数時間前の光景を思い返していた。
否、先程から考えるのはその事ばかり。

おかげで風呂ではのぼせそうになり、危うく小五郎に突入されてしまう所だった。

―どうしよう…私、私…。

蘭は無造作に、自分の唇を指で押さえる。
数時間、ここには確かに自分以外の体温があった―

自分が新一にそう頼んだのだ。
後悔している訳ではない。むしろ、その逆と言って良い位。

肩を掴まれた時も、顔を近づけられた時も、全く嫌な感じは起きなかった。
あの、不快な出来事とは、似ても似つかない。
全く同じ行為のはずなのに…。

そもそも、どうして新一は黙って聞き入れたのか。
いや、まずどうして私、新一にあんな事を頼んじゃったんだろう…。
新一だって、断れば良かったのに…

断る。
ことわる。
…コトワル?

もし、あの時断られたら私はどうしただろう。
冗談で言った訳ではないけど。
色々あり過ぎて、思考回路がショートして、どうにかなってしまっていたのは間違いない。
じゃなきゃ、普通こんな事を言うなんて有り得ないから…。

だけど、新一は本当にどうして私と…

『男の子はね、女の子と違って、気持ちがなくたってそういう事が出来てしまう生き物なのよ』

前に、誰かがそう言っていた気がする。
新一もそうだったのかな…。
だって、新一だって男の子、なんだもんね…。
キスくらい、特別でも何でもなかったのかな…
ああいう事、誰とでも出来ちゃうの?
いなくなってた間に、誰か他の人と…?
嫌だ、考えたくない。

この期に及んで嫉妬に燃える自分に甚だ嫌気が差す。
新一は、私の望みを叶えてくれただけ。もちろん、気持ちがなかったとしても責めるつもりなんてない。
どうして?なんて聞く資格、私にはないんだって、解ってるよ、解ってるけど…。

やっぱり私、どうしようもない位、新一の事が好きなんだ―

明日、どんなカオをして新一に会ったら良いの!?

―*―*―*―
同時刻。
自室のベッドに腰掛ける新一。

いつもは適当に課題を終わらせた後、推理小説に没頭するのだが、今日は1字たりとも読み進められずにいた。

あの時、気が付けば、身体が勝手に動いていたのだ。
考える余裕さえなかった。

恐れていた事が起きてしまった。
やはり、自分はまだまだ人間が出来ていなかったのだという事を、嫌という程痛感する。

まずは落ち着いて事情を聞き、宥めるのが正解なのだと頭では分かっていた、つもりだったのに…。
あの『目』に勝てなかった。
どんな綺麗事も通用しない。

…結局、俺は自らの欲望に負けてしまった惨めな男なんだ。
蘭から誘われたのは間違いないにしても、それを逆手に取って都合良く解釈してしまったのは、俺の落ち度に外ならない。

まだ、蘭に何も告げていない、この状況で…
彼女のファーストキス(恐らく)を奪ってしまったのだから。

蘭はあの時、何を思っていたんだろう。
冗談だったとしたらシャレにならないが、こればかりは今更謝った所でどうしようもない。

例え一瞬でも、頭の中を俺でいっぱいにしてくれていたら…
この期に及んで浮かぶ傲慢な思考に、ほとほと嫌気が差す。

明日、どうやって蘭に話し掛けたら良いんだろう。
だけど、こうなった以上きちんと謝らなければ。
その上で、自分の正直な思いを告げよう。
そうしなければ、とても前に進めそうにはない…。

―*―*―*―
翌朝。
お互い、顔を合わせづらい二人。
朝練を口実に、早く出ようとする蘭。

昨日はほとんど眠れず、いつもより大分早く目覚めた新一。

…皮肉な事に、登校のタイミングがピッタリ合ってしまったのだ。

―(…新一)!
―(…蘭)!

―…おはよう。
―…お、おぅ…

その後の会話は続かない。
無言で並んで学校へと向かう二人。

―(ど、どうする?)
―(どうすれば良いの…?)

結局、一言も交わせぬまま、学校に着いてしまった。

教室の面々も、二人のぎこちなさを薄々感じ取っているようだ。

―ちょっと、ちょっと蘭?新一君と何かあったんでしょ!?

毎度の事だが、園子はやはり鋭い。

―な、何もないよ…!
―本当にぃ?
―う、うん…
―な~んか、怪しいんだけどなぁ…ま、良いわ。進展あったら、聞かせてよね。
―…あ、うん。

この日は、あっという間に放課後となってしまった。
あれから新一とは話をしていない。
空手部の練習を終え、玄関へと向かう蘭。
靴を取ろうとした、その時。

―よぉ、蘭。
―…新一?何で?
―待ってたんだよ、オメーをな。帰るぞ。

気が付けば、昨日の場所に来ていた。
不意に足を止める新一。

―あ、あのさ…蘭。昨日の事だけど…
―言わないで!
―えっ?
―イヤ、聞きたくない…
―聞いて欲しいんだよ!…その…昨日は悪かったよ…。
―何で謝るの?謝って欲しいんじゃないもん!
―なら…どうすれば良いんだよ…

―…どうして?
―えっ?
―…どうして、断らなかったの?何で私の言うこと聞いたりしたのよ!新一が断れば済んだ話じゃない!
―…れなかったんだよ。
―はぁぁ?
―…っだから!断れなかったんだよ!!
―そんな…どうして…
―オメーはなぁ!もう少し男の気持ちを理解しろっての。好きな女にあんな目で迫られて、断れる男なんかいやしねえんだよっ!!
―…!!!

蘭の思考は停止した。
―ねえ、今の、本当?
―…ああ。今まで逃げてて悪かった。何か、踏ん切りが付かなかったっていうか…完全に俺のせいだ。順番が逆だってのは解ってる。でも…あれは、蘭だったから―だぜ?
―新一…。

蘭の目はみるみる潤んでいった。
―バーロ、言っただろ?その目は反則だって…。
―だ、だって…
―で、オメーも本気だって事で良いんだよな?
―う、うん…私も…

言いかけた時には、既に新一の腕の中に閉じ込められていた。
―じゃ、もう遠慮はしなくて良いんだよな?

そう言うと、新一は再び顔を近付けて来た。
それに応えようとする蘭。

…その時。

RRRRRR!

蘭の携帯が鳴り響いた。
―あっ、もしもし、お母さん?

―(さすがは、蘭の母さん…完璧なタイミングだな…)
蘭は気付くはずもないが、当然新一は心底がっかりしたのだった。

でも…
もう、急ぐこともない。
互いの気持ちが通じ合った今。
これからは、いくらでも心のこもったキスが出来る。

蘭を存分に喜ばせる事だって、出来るんだ。
だから…俺たちのペースで、ゆっくり行けば良いんだ。
これからよろしくな、蘭。

―新一!今から久しぶりにお母さんとディナーするんだ!新一も来る?
―え、あ、あぁ…どうするかな…
(あのおばさん、やっぱり苦手だぜ…)
―新一、行くよ、早く~!

~Fin~

【あとがき】
何とか完成させる事が出来ましたっ(汗)
冒頭で抑えきれずにキスしてしまいましたので、ここは平等に(笑)、2度目はお預けにしました。
加えて、Bパートは種をまいた新一にしっかり責任を取らせるべく、園子の力等一切借りずに、自分だけの力で蘭への思いに踏ん切りを付けさせる展開にしましたが、いかがでしょうか?

お読み下さった皆様、A/Bパートどちらがお好みですか?
宜しかったら感想等聞かせて下さったら嬉しいです。

ここまで閲覧して頂き、誠にありがとうございました。

Please Please (kiss) Me...~PartA~

前回、蘭に究極のお願いをされた新一。
a)を選んだ皆様宛ての物語です。

―*―*―*―
―お願い、新一!キスして…
―!!!

蘭は、新一からその潤んだ目を逸らそうとはしなかった。
―(一体どうすれば良いんだよ…)
―ねえ、お願い…。
―(これは本気…なんだよな。)

新一は、注意深く蘭から視線を外し、うつむいた。
その目に完全にピントを合わせてしまえば、自分の取る行動が決まってしまう。

今の蘭の頼みを果たすのは、至極簡単な事。
本能に従えば良いだけの事だ。
これ位、蘭が望むのなら、いくらでも応えてやれる。
何故なら、その望みは自分も抱いていたもの―それも蘭よりずっと前から、より強い願望で―に外ならない。

だけど、それで本当に良いのか?
それを『今』してしまっても良いのか?

同時に、新一の理性が強く訴えかけて来る。
まだ蘭と気持ちが通じ合った訳ではないこの状況で行動を起こし、お互い本当に後悔しないのだろうか?
(俺の知る限りでは)蘭にとっても、勿論自分にとっても、これは紛れもない『ファーストキス』なのだ。
それをこんな形で済ませてしまって、本当に良いのか、俺!?

…ところで、蘭はどうしていきなりこんな事を自分に要求したんだ?
普段の蘭の性格からして、どう考えても有り得ない行動だ。
いや、そもそも、どうしてこんな泣きそうになってんだ!?

短い時間で様々な思考を巡らせるうち、新一は徐々に平常心を取り戻して行った。
冷静に蘭に視線を戻すと、蘭の肩はかわいそうな位に震えていた。

深呼吸の後、新一は優しく蘭の肩に手を置いて言った。
―どうしたんだよ?こんなに震えて…
―………。
―何か、あったのか?
―………。
―蘭?
―…し、新一の…
―バカ!って言いたいのか?分かってるよ、言われなくても、な…
―ど、どうしてそんな…

次第に蘭の声は涙混じりになる。
やはり、今日の蘭はおかしい。

―言いたくないなら、無理に言わなくて良いよ。送ってく。

その後、蘭を探偵事務所まで送る間、2人は終始無言だった。
―じゃあな、蘭。また明日。
―………。
蘭は軽く頷いただけで、言葉を発する事はなかった。

―*―*―*―
―どうして、新一にあんな事言っちゃったんだろう…。

浴槽に浸かりながら、夕方の出来事をひたすら思い返す蘭。

―困ってた、よね…迷惑だったよね、絶対…

新一の姿を見た時、思わず口走ってしまったあんな言葉。
あの嫌な出来事を、1秒でも早く頭の中から消し去ってしまいたかった。忘れてしまいたかった。
だから、新一の気持ちも考えないであんな事…自分を守るためだけに…

ただの幼なじみに頼むにはあまりに度が過ぎている。
いくら私が望んだって、新一はきっとそう思ってないこと。
自分の気持ちを新一に押し付けるなんて、最低だ、私…。
明日、どんな顔をして新一に会ったら良いんだろう―

翌日。
新一と顔を合わせる勇気の出なかった蘭は、部活を言い訳に早く家を出た。

一方、いつもの時間に家を出る新一。
校舎に入ると早々、女生徒の話し声が耳に入って来た。

―ねえ、知ってる?昨日、空手部の武島が毛利さんに告ったらしいよ!

―(何、だと!?)

―あ~、それ知ってる!けど、振られたらしいじゃない。ま、武島もなかなかのルックスだけど、あの毛利さんと並ぶにはちょっとね…

全く彼女の言う通りだ、と同時にホッとする新一。
しかし、次の言葉で再び凍り付いた。

―そうなんだけど!諦める代わりにキスさせろって強引に迫ったって!他の空手部員がたまたまその様子を見かけたらしいから、間違いないわよ!

―(ウソ、だろ…)

―えっ、それホントに!?最悪…武島、ちょっと良いかなって思ってたけど、見損なったわ…
―ね~、評判ガタ落ちも良い所だわ。
―で、毛利さん、ヤツにやられちゃったワケ?
―まさか。一瞬の隙で突き飛ばされて即終了だったって。ま、いくら現役男子空手部員でも、あの毛利さんは一筋縄じゃ行かないって事ね。最も、見てた他の部員が応戦するつもりで構えてたらしいけど、出る幕なかったみたいよ。
―へえ~。

―…っ畜生!
新一は拳を壁に思い切り叩き付けた。

―(だから、あの時蘭はあんな事を…)
きっと、忘れたかったに違いない。
嫌な出来事を。
武島の事は、どうしたって許せない、が。

―この期に及んでその役目を自分に頼んだ蘭。
ヤケになっていたのだとしても、自分となら、そうなっても構わないとあの時一瞬でも蘭は思ってくれていたのだ。

いや、本当にそうなのだろうか?
―(わたし、新一がだーい好き!!)

あの時、蘭は確かにそう言っていた。
その気持ちが未だ変わっていないのだとしたら?

...全部自分のせいでは、ないのか!?

俺が、もっと早く踏ん切りをつけてさえいれば、そもそも蘭はこんなに辛い目に遭う必要もなかったのではないか―
―ハハ、全部、俺が悪いんだ。

ここに来て、ようやっと新一の腹は決まった。
当たって砕ける事になっても構わない。
手遅れを防ぎたいというのなら、いち早く行動を起こすしかない。
もう後悔するのは、ごめんだからな―

その日の放課後、新一は決死の覚悟で蘭を誘い出した。
相変わらず会話のないまま、昨日の河川敷に辿り着く。
新一は、ついに切り出した。

―なあ、蘭。昨日のことだけど...
―えっ?
―あれ、さ。本気―だったのか?
―あれは...その...
―俺、さ...あの時もし一瞬だけでも、蘭が本気だったらどんなに良いかって、思ってた。たとえイヤな事を忘れるためだけに利用されても、構わないってな。
―どうしてそんな事言うの?
―えっ?
―新一は優しすぎるよ...そんな事言われたら、私―期待しちゃうよ?だから、止めて...もう、良いから忘れて―
―忘れられるわけねぇよ!
―何でよ?はやく忘れてよ!
―バーロ、そんな事出来るわけねえだろ!何で期待しねえんだよ!?俺は別に利用されたって構やしねえ...好きな女に利用されて浮かれない男なんかいねえんだよ!!
―嘘っ...!!!
―いや、ウソは言ってねえぜ?これは紛れもない真実だからな。

蘭は、たまりかねて泣き出してしまった。
しかし、昨日とは違う。
そのまま新一に抱きついて、一言。

―...信じて良いのね?

刹那―
返事をする代わりに、精一杯の愛を送る新一。

その愛は、蘭の唇を通して、確かに伝わった。

―これが、俺の答え...
これから、いくらでも、オメーを喜ばせてやるからよ。

~Fin~

【あとがき】
何だか、うわぁ~!って感じですが、いかがでしたか??
partBの方もお読み頂けたら幸いです。
プロフィール

Mammie

Author:Mammie
Mammie(マミー)と申します。
最近は、新蘭二次小説執筆がメインで、現在は、パラレルストーリーを連載中。
気軽に話しかけて下さったら嬉しいです。
ブロとも・相互リンクも募集しています。

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